山口 和敏

熊本を中心にテレビディレクターとして30有余年。哲学を専攻。今も「人間とは…」「生命とは…」といった空恐ろしいことを問い続けながら、幅広いジャンルの番組制作に携わっています。 およそ2年前、「上顎洞がん」というけったいな希少がんに罹患し、余命6か月の宣告を受ける。 抗がん剤治療や放射線治療、12時間に及ぶ手術といったほぼフルコースのがん治療で右目を失うという過酷な闘病の中、脳のわずかな場所が生み出す絶望や苦悩にも関わらず、70兆個にもおよぶ肉体が持つ、生命の尊さと力強さをひしひしと深く感じることができた。これらの経験がいまの私の制作における大きな動機となっています。

エッセイ

たんぽぽ虫と睡眠

2021/9/23    , ,

 「あ”あ”、だすけてええ、あ”あ”ぁ」  草や木も眠ると言われている午前2時半。怪談もオバケが出てくるのは決まってこの時間、丑三つ時です。なんとなく目が覚めていたので水でも飲もうかとぼんやりしていた ...

エッセイ

遺伝子のささやき

 中学校の体育教師をつとめていた父方の祖父は町の人たちから「ライオン」と呼ばれていました。常に生徒に吠えていたからです。直接その声を聞いたことはありませんが、ライオンというくらいですから「ガオー」に近 ...

my face

エッセイ

頬から腹毛がはえます

2021/8/31    , ,

 顔の半分が麻痺していると、もちろん口半分もきれいに麻痺しています。口が麻痺していると食事の時にどんなことになるのかというと、結構シュールで面白いことになります。麻痺している右の口から、雑炊のようなも ...

黒糖フクレ

エッセイ

術後せん妄について

2021/8/24    ,

 「右上顎拡大全摘」  「右頸部郭清」  「腹直筋皮弁再建」  「気管切開」  先月7月8日、私に行われた手術内容の正式な名称です。改めて文字にしてみるとゴツゴツしていて迫力があります。手術を始めると ...

白キンカチョウのめいちゃん

エッセイ

眼と歯がなくなると浮気の心配はなくなるのか

2021/8/17    

 がんになると多くのものを失う……と思いきや、実は、得るものも多く、失ってしまったものに囚われなければ、結構なプラスになります。  いきなりお金の話になりますが、40歳を過ぎたら、がん保険はぜひ加入を ...

アメを舐めるパートナー

エッセイ

ものの食べ方について思うこと

2021/8/12    

 食事に苦労しているので、以前よりものの食べ方に興味があります。  ふと思ったのですが、食べることと出すことは人間にとって同じくらい大切なことのはずなのに、なんで出す方は隠し、食べる方は隠さないのでし ...

仕事を手伝う福ちゃんとめいちゃん

エッセイ

焦らず、慌てず、諦めず…でも

2021/8/11    

 小鳥と暮らしています。  以前、スズメを保護していたことがあり、その時の可愛さが忘れられず、小鳥を飼うことが長年の夢でした。鳥のおもちゃを買ったり、フエルトの小鳥をバッグに付けたりして、その思いをを ...

石器

エッセイ

病気をめぐる言葉の力

2021/8/6    ,

 病気をめぐる医者との会話で、「医者はまずリスクを語る」ことを知っておくべきです。なぜなら、そのことを知っているだけで余計な心の沈み込みを少しでも減らすことができるからです。  例えば私の場合、医者は ...

わたし

エッセイ

怪物の嫉妬について

2021/8/5    

 鼻からの管を通した食事を卒業し、お粥が食べられるようになると、こんな美味しい食べ物が世の中にあったのかなんて感動すら覚えていたのに、慣れてしまうと、こんな水浸しの米ばかり食えるかと思ってしまいます。 ...

ふく

エッセイ

退院と手術跡を食べるキンカチョウの話

2021/8/2    ,

 退院しました。  当日はパートナーが仕事を休んで駆けつけてくれました。目がなくなり、つぎはぎだらけで、パンパンに腫れあがった顔をみたパートナーは予想通りの爆笑。しゃべるとさらに大爆笑でした。  「お ...